ドラマと映画の時間

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38.Apple映画:fancy dance

今回はAppleTVプラス配信映画、ファンシーダンスを紹介したいと思います。こちらの映画はキラーズオブザフラワームーンで惜しくもアカデミー主演女優賞を逃しましたが、確かな実力と不思議な存在感で一躍注目の的になったリリーグラッドストーンが主演してる映画です。

 

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おそらく映画ファンがこのリリーグラッドストーンが主演してる映画という事でどんな映画なのか、気になっている人も多くいると思います。私自身もAppleTVで配信されてからすぐに鑑賞いたしました。

実はこのファンシーダンスの映画監督エリカトレンブレイは、どうやら長編映画初監督作品という事で実力ある俳優のリリーグラッドストーンをむかえてどのような作品を見せてくれるのか、その点でも楽しみにしてました。

 

結果的にいうと監督のエリカトレンブレイはこれが初監督とは思えない手腕で、実に印象に残る映画作品を世に放ったと思います。

 

この映画を15分ほど見て確信した事があります。それはエリカトレンブレイ監督は是枝裕和監督の影響を多大に受けているという事。

 

冒頭から万引き家族のオマージュのようなシーンがあるし、ストーリーはとてもシンプルでわかりやすく、まるでドキュメンタリーのように映像が流れていくのですが、非常に演出にこだわっているところがうかがえます。

これは是枝監督の映画にも言える事でシンプルなのだけど演出が非常に複雑で、それが映画の核となっている点がエリカトレンブレイ監督と是枝監督の共通する点です。

また「家族の在り方」というテーマを中心において制作されてる点もそうですし、エリカトレンブレイ監督はそういう点でどうやって家族や社会を描くべきか、是枝イズムともいうべきシンプルなストーリーに様々な意味をもたらす演出法に、大きな突破口ともいうべきものを感じたのだと思います。

 

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日本には是枝監督の作品が好きな人が多くいると思いますが、そういう方はぜひこの映画を見ていただきたいと思いました。特に万引き家族が好きな映画だという方はぜひ見ていただきたいと思います。

さてそれではレビューにうつりたいと思いますが、一つ問題があります。

是枝監督作品にせよ今回のファンシーダンスという映画にせよ、いくつもの演出がほどこされ重複する意味を持っているのが明らかにわかるのですが、それら全てどういう意味があるかという事を書いたりすると、それは映画の破壊行為以外の何ものでもありません。

 

いわば手術台に映画という身体をのせて、腹を裂いて臓器を引っ張りだしながらこの臓器はどんなものなのか、それを論じてるようなものです。

これほどみっともない事はありません。

 

ただその一方でこの巧みな演出の理解されないのも悔しいしどうしたもんかなと考えたのですが、1番最初の冒頭のシーンのある行動が実はこの映画の成り行きを表しているのだけど、多くの日本人にはわかりにくいところもあります。

そしてこの映画を通して今後この点を理解した上で見ると、これから小説も映画もより面白く、味わい深くなると思うのでその事は言及したいと思います。

 


ただネタバレは多くしないとはいえ、やはりできればこのファンシーダンスを鑑賞した上で読んでいただけたらと思います。

ご注意ください。

それでは簡単なあらすじの紹介とレビューに移りたいと思います。

 

 

 

ファンシーダンス/レビュー

 

 

 

 

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簡単にあらすじを書くと、リリーグラッドストーン演じる主人公のジャックスは妹とその子供、ロキと一緒に暮らしているが、妹がある日突然行方不明になってしまいます。

 


妹の行方を探しつつ妹の子供と一緒に暮らしているが後見人として不十分で義理の白人の父親に妹の娘のロキは行ってしまい、やがて法律に逆らいつつジャックスとロキはネイティブアメリカンにとって重要な文化行事であるパウワウが開催される地に向かって車を走らせるという展開になります。

かなりわかりやすい展開なのですが上記に示した通り、日本人にはわかりにくい箇所と、この事を覚えておけばアメリカの小説あるいは映画をより面白く見れるという事を書いていきたいと思います。


それではまず冒頭でフライフィッシングをしてるシーンがありますが、アメリカにおいてフライフィッシングは映画や小説の世界では神の恵み/森の中で真理を釣りあげるという、意味合いがあったりします。

 


森の中では人間が食べられる食糧がありますし神が与えてくれた御業/みわざである、という事です。小説や映画では森そのもの自体が神の庭、天国として表現されたりします。

 


代表的な映画で言うならばリバーランズスルーイットやテレンスマリック作品のシンレッドライン、ニコラスケイジ主演のPIGなどが挙げられます。

 

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そしてその神の庭というべき天国でここではマスを釣っているのですが、魚を釣るというのは真理を釣るという事になり、実に尊い事をしているという事になります。

 


キリスト教私観ですが、フライフィッシングの発展には釣れる餌釣りではなく、釣れない擬似餌とリールを使って釣る事によって神の導きを感じるという思想があります。

そしてそのヨーロッパ/多くのキリスト教の信奉者の白人からトラックを盗むという行為にジャックス達は移るわけですが、ネイティブアメリカの人々からするとキリスト教支配から逃げるという事を表しています。

 


さらに黒いトラック=闇の歴史を乗せて時代を走り続けきたという事を推察させるし、そのトラックがどこに行くのか、ここの意味合いがわかると、この後のトラック描写が何を意味するのか興味深く見れると思います。

 


このように小説や映画で森を彷徨っていたり何かしている描写があった場合は、天国の意味合いと神の導きの元で、という事を表している場合がとても多いですし、乗り物を長く運転したりロードムービーなんかは乗り物自体が時代や人生そのものを表していたり、色なんかも注意して見ていただければと思います。

乗り物の色が黒ならば闇、赤ならば血あるいは人生、黄色ならば希望や光速、青ならば海や川を連想させる想い出と言った具合です。

 


私がレビューしたPIGというニコラスケイジが主演した映画がありますが、上記に書かれた事を念頭に見るとかなり印象が違うと思います。その記事のリンクを貼ろうかなと思ったのですがネタバレになるので映画の深味を損なってしまうので貼るのをやめておきます笑。ご鑑賞後に読んでいただければと思います。

 

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とまぁこんな感じでファンシーダンスという映画は万事がこの調子でかなり演出がされているのだけど、是枝監督の場合はこの演出はどんな意味があるのか、そればかり気になってストーリーに集中できないという事があったりしたけど、この映画の場合はそこまで集中できない事はなかったです。

 

それはエリカトレンブレイ監督が初めて撮った長編映画だからかも知れませんが、本数を重ねていけば演出が凝ってくると思うので、是枝監督のように演出の意図ばかり気になって集中できなくならなければいいなとも思います笑。

 

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さてファンシーダンスはオクラホマが舞台ですが、オクラホマというのはアメリカの位置では真ん中の少ししたあたりの地域で、ネイティブアメリカンの人々が強制的に移住させられた場所でもあります。

そしてタルサというのは石油の産出される場所でも有名であるし、その石油によって、石炭から石油によるエネルギー革命をいち早くアメリカは取り入れた事によって成功した国でもあります。またタルサでの黒人虐殺は地下鉄道やウォッチメンというドラマでも取り上げられた場所です。

 


これも小説や映画ではあるのだけど、アメリカの地図の真ん中/アメリカの歴史の真ん中にあるという事を示唆させていたりします。

今年はアメリカ大統領選挙がありますが、選挙が近くなるとアメリカを題材にしたテーマの映画が盛んに制作されたりしますが、オクラホマネブラスカ州など中西部で物語が展開していく映画などは、地図の真ん中=歴史の中心と演出表現されたりします。

昨年配信されたAmazonプライム映画のFOE/もっと遠くへ行こうという映画もネブラスカが確か舞台でしたが、アメリカの真ん中にある集中ですから、このような演出表現がされていました。こちらの映画もいずれレビューしたいなと思います。

 

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とまぁこんな具合でちょっと日本人にはわかりにくい演出表現の事を指摘させていただきましたが、これだけでもかなりわかりやすくなると思いますし、今後の見るあるいは読む小説や映画の手助けになればと思います。

おそらくこの事に気づくとジャックスの服がなぜこのような色合いなのか、ロキという名前はなぜなのか、少し調べたり、考えるとわかるのではないか、と思います。

 

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今回、主役のリリーグラッドストーンはとても素晴らしかったけど、不思議な透明感に溢れた俳優だなと思いました。

非常に重い題材を扱っているけど、彼女の存在感と透明性がなにか少しフワリと軽くさせるというか透明感になにかあふれているというか。

 


静かながら主張性があり、このような現実がある事を認識しつつ、その踊りそのものがファンシー/空想的でありながら回り続ける普遍性がずっとある映画だなと感じました。

というわけでいかがでしたでしょうか?最近は知識マウントという言葉もあるみたいで私自身のブログそのものが知識マウントに溢れているかも知れませんが笑、これからも目立たず記事をポツリポツリ置いていく感じで発信していきたいと思います。

 


5段階評価

 


個人的満足度:🌟🌟🌟🌟

 


オススメ度:🌟🌟🌟🌟

 

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ちなみにフライフィッシングは神の導きを辿るという表現がありましたがその後、釣り道具の技術発達によって魚が沢山釣れるようになり、そのような宗教的思想は薄れて、代わりにゲームフィッシングという概念が生まれました。

それは近々リバーランズスルーイットという映画紹介をしたいと思いますので、その記事で詳しく説明したいと思います。