今回はマンダロリアンを紹介したいと思います。
マンダロリアンは映画スターウォーズから生まれたシリーズで、ドラマではシーズン3まで制作されているディズニープラスでは人気コンテンツとなっています。
これはスターウォーズを見てない人でもオススメしたいドラマです。スカッと面白いドラマを見たいというならば、この作品が1番オススメです。スターウォーズを見てない方もいると思いますが、マンダロリアンの場合は見てなくとも大丈夫です。もちろん見ていた方がより楽しめますが、問題ありません。このドラマはだいたい30分くらいでサクサク見れるというところも良いところですね。
さて前回の記事でゲームオブスローンズと日本映画とその歴史について書きました。
実はこの続きがマンダロリアンと関係してきます。知ってる人も多いと思いますが、ゲームオブスローンズでマンダロリアン役のペドロパスカルは出演してますし、この出演が大きくマンダロリアンに関係してると思います。
詳しくはぜひ前回の記事を読んでいただきたいのですが、ザックリ書くとゲームオブスローンズは七人の侍の影響がかなり影響がある事。
七人の侍は農民は国民で、侍は政治家や軍部の人間でお互い仲は悪いが、共に結託して盗賊を打ち倒すという社会構造を入れ込んだ七人の侍に対して、ゲームオブスローンズもかつて七王国のイギリスの歴史を下敷きにしつつ、お互い地方/国で仲は悪いが、最後は結託しながら謎の軍団と戦うという流れがあります。
現代でもイギリス、ヨーロッパの北部にはロシアという強敵があるのだから仲悪くせずに共に結託する事をベースにおいてもいるドラマだという事です。
黒澤明や脚本家の橋本忍、他にも多くの映画人は太平洋戦争を経験した者であり、かつ従軍していました。
国のために死ねと言われて育ち、結果的に敗戦してそのような精神性は完全に否定された。
国とはなにか。
人間とはなんなのか。
太平洋戦争、第二次世界大戦に戦勝国のアメリカやハリウッドにはそのような問いかけは発動しなかった。それゆえにいつも同じ勧善懲悪な物語やラヴロマンスばかり量産されていました。
敗戦国の人間だからこそ、そのような問いかけが発動し、映画や小説の世界に満ちていきます。
ハリウッド含め世界の映画業界は羅生門、生きるという映画にかつてないヒューマンドラマを見た上に七人の侍でさらに社会的構造が含んだドラマと、雨の中で泥まみれになりながら戦う戦闘シーンに度肝を抜かれます。
さらに血の演出を入れた用心棒と椿三十郎でその衝撃はさらなるものになった。
クールでハンサムな俳優とプロポーションが抜群の女優が主要キャストを務め、泥まみれになるなんてあり得ない時代に、世界中の映画業界は衝撃を受けます。自分達はあまりに子供じみた事ばかり、毎回同じ事ばかりやっていやしないか。
日本の、黒澤明の映画からしてみるとあまりに志もストーリーもレベルの低い事をやっていやしないか。
そして日本の小林正樹、大島渚、溝口健二、小津安二郎など日本の映画が世界中の人々を魅了していきつつ、ハリウッドを含めた世界の映画業界はリアル志向に方向転換していきます。
現在はストリーミングサービスの時代になり、契約してる視聴者から毎月定額料金を徴収するこのビジネスモデルは、スポンサーの意向は地上波のテレビや映画ほど影響は受けません。
ヨーロッパにあった歴史、リアルな戦闘シーンを盛り込みつつストーリーを展開したゲームオブスローンズは、到底地上波での放送できる内容ではないが、世界で大ヒットして2010年代の代表的なドラマとして玉座に君臨しました。また実はブレイキングバットも黒澤明の生きるから大きな影響を受けているドラマです。
こちらもいずれ書きたいと思いますが、チラッとその事を載せていますので、ぜひ前の記事を読んでいただけたらと思います。前置きが長くなりましたが、ここを踏まえてマンダロリアンとのつながりを書いていきます。
まずは七人の侍によって日本では時代劇のあり方が変わってしまった事。それまではチャンチャンバラバラやるチャンバラが主流だったのに、リアルな演出が大きな影響を与え、さらに用心棒、椿三十郎の血の流れる演出で、映画を見る観客の目がリアル志向になり、もうチャンバラ劇はヒットしなくなります。
特に東映は大打撃でした。時代劇をメインにしていたからです。
東映は大映のスタジオから独立した新興企業でしたが、資金難で金がなく映画制作もままならない状況でした。
松竹、東宝、大映は黒澤明の世界的に評価されたのを受けて、こぞって世界に向けて映画祭に出品できるような、いわば文芸作品を作る事に活路を開いていこうとします。
しかし東映は違いました。予算がかかる文芸作品は制作できず子供が好きな時代劇ばかりを量産していました。子供向けの映画としてジャリすくいと他の映画会社からバカにされていたそうです。
それでも戦争が終わり、時代劇が作れるようになって空前の大ヒットが続きます。文芸作品が作れなくとも、質が悪いと言われようとも、ヒットする事が多額の借金のある新興会社には絶対条件でした。
空前のヒットを飛ばしていてもここで黒澤明のリアル志向で社会構造の含んだ時代劇によってまったくヒットしなくなったと。
これによって東映の時代劇も変わらず得ません。
血が流れる演出を見て、だったらもっと血を流す演出をした過激なヤツを作れば良いと、ストーリーそっちのけで血まみれ映画を量産していきます。
特に十七人の忍者は有名で、これが忍者を知らないアメリカなんかではヒットしました。
つまりハリウッドでも黒澤明のように血が流れる演出をして子供じみた物語は作らないようにしよう。そしてそこに小林正樹の切腹だとか重たいヒューマンドラマに衝撃を受けつつ、東映のヒューマンドラマは関係ない血みどろだが軽すぎる作品にも衝撃を受ける。
そして極めつけの軽い作品の代表作が勝新太郎こと勝プロダクションで作られた兄の若山富三郎主演の子連れ狼です。
腕、頭、ありとあらゆる部位が飛び、子供を入れた乳母車からはヤリが飛び、さらにはマシンガンのような物まで装着して子供が撃ちまくり敵をズタボロにしてゆく。
ハリウッドなんかは特に驚いたと思います。乳母車からヤリとか銃とか子供が撃ったりなんなん?この映画なんなん?っ具合に。でもこれがオオウケして大ヒットします。
奇しくもスプラッター映画の始まりともいえるこの作品に世界中が衝撃を受けて、さらにそんな簡単に毎回毎回スパッと人間の部位が斬れるわけではないのに日本の刀はヤバいと、勝手に日本刀に対して刀信奉とも言うべき崇拝をはじめてハリウッドはじめ多くの映画に日本刀が出るようになるというかw。
ゲームオブスローンズはストリーミングサービスが始まってファンタジー作品でありながらリアル志向な作品であり、七人の侍の影響が強くある。
子連れ狼という作品は七人の侍や用心棒、椿三十郎があってこその作品である。マンダロリアンもゲームオブスローンズのヒットによって制作された可能性は高い。
この両者は互いに歴史の延長上にあって、ゲームオブスローンズやマンダロリアンを見る事によって歴史の追体験ができると言えば大袈裟ですが、同じ系譜を辿っているのは間違いないと思います。
☆アクション映画の変革
おそらく日本刀の斬れ味の凄味というか、本当の部分でも誤解してる部分でもやはり黒澤明の用心棒と椿三十郎だと思います。一瞬にして斬り倒す迫力あるシーンがありますが、これでかなりアクション映画は変わったと思います。
西洋のアクション映画では銃による、いわゆるガンアクションがメインですが二人で対決するシーンはなかなか同じ画面で二人の男が向き合って撃ち合うというシーンは距離が近すぎて迫力にかけるというか。
しかし椿三十郎のラストの対決シーンなんかは違います。二人が同じ画面に向き合うからこそできるシーンです。そして刀で斬ると血がドバッと噴き出る。これを私も中学の時にテレビで見ましたが、いまだにあの対決シーンを超える作品はないと思います。それくらいインパクトがあった。
そしてこれはなかなかガンアクションではできない。しかも血の流れる演出なんてまだ日本の客も世界の客も見慣れてないのだから、そのインパクトたるものや絶大な効果があったと思います。
ですからスターウォーズはガンアクションではなくライトセーバーで最終的には斬り合うという流れが生まれるわけですね。
もしスターウォーズが最終的にガンアクションで決着をつけるならばここまでヒットしないし、熱心なフォロワーもそんなにいなかったのではないか、と思います。
ちなみにジョージルーカスは三船敏郎にオビワンケノービの役を打診した事は有名な話ですが、これには大きなワケがあります。
黒澤明は三船敏郎が俳優のなりたての頃に酔いどれ天使という作品でヤクザのボスを演じさせます。
続いて野良犬という作品で新人の刑事役で、七人の侍では侍になりたい農民の役として村を守る役になり、天国と地獄では会社の幹部の役として人を牽引する役、そして黒澤明との最後の作品の赤ひげでは医者として人を癒す役をやります。
酔いどれ天使のヤクザの親分から赤ひげでは人を癒すという、人間の成長譚物語としての側面もあります。
オビワンケノービはジェダイの騎士という役で、フォースというパワーを持って人々を守る役です。
赤ひげの人々を癒す役からさらに神格化したポジションとしてジョージルーカスは三船敏郎にぜひ出てもらいたいと思っていたし、どれだけ尊敬してるのかがわかります。
残念ながらそのオビワンケノービの役は実現できませんでしたが、これができていたら、アジアのキャストに対するハリウッドの姿勢も当時から違ったものになっていたかも知れません。まぁ、それは言っても仕方ない事ですし、アレックギネスのあの落ち着いたたたずまいは本当に素晴らしいです。
ちなみにディズニープラスのオビワンケノービは見てません。ちょっと映画のエピソード8、9があまりにひどかったと感じたため、熱が冷めてしまい、マンダロリアンとキャシアンアンドーは見ましたが、フォースを使える人間の物語はちょっと見る気になりません。
マンダロリアンシーズン3
というわけでマンダロリアンについてその物語の面白さだけでなく、日本映画との関わり合いやこの作品を視聴する事によって歴史の追体験できるところもあるという事を書いてきました。
もちろん様々な影響を受けているので日本映画だけの影響だけではありません。それについては今後、シーズンごとを振り返りながら書いていきたいと思います。
シーズン3はネタバレありの感想はシーズン4の時にあらためて書きたいと思います。
今回のシーズンはコメディ要素もあったり、過去のシリーズよりもゆっくりとしたテンポで進んでいるような点があげられると思いますが、どちらかと言えば、前シリーズまでの緊張感溢れる展開でそんなにコメディ要素はなくとも良かったかなと思ったりしました。
ただマンダロリアンにはコメディ要素が欠けているという人ももちろんいらっしゃると思いますので、個人的な感想です。
でも第6話でサプライズゲストが出てきたのは嬉しかったですね。2023年のフジロックのトリでもあるあの人はとても緊張していて笑ってしまいました。その旦那役は余裕たっぷりな感じで演技していてとても良かった。
ただあの6話自体もう少しなんとかならなかったかなと思ったりもしました。
とは言ってもラスト2話はとても面白く、満足がいくものでした。
全体的には次のシリーズに向けてのポップステップ、だったと思います。次のシーズンはこの助走を踏まえて確実に傑作シリーズになるのではないかと思います。楽しみですね。
ここ最近は海外ドラマ、Netflixで話題になっている相撲のドラマ、サンクチュアリもそうですが、落ちこぼれから成り上がる物語が量産されつつあると思います。特にNetflixはイカゲーム、イジメられた人間が復讐するグローリー、ディズニープラスでは過去の犯罪からボクシングにうちこむマイクタイソンの自伝ドラマ、タイソンなどあります。
背景にはアメリカでも白人よりもラテン、アジア、黒人という有色人種が多数派になり、世界的にも白人よりも有色人種の方が多くなります。
ストリーミングサービス自体、世界の人々が相手になるので、そうなると必然的に有色人種の方も主要キャストになってくる。
韓国ドラマの勢いはそこにもあります。今まで脚光を浴びなかった国、土地、そして人々が表舞台に立ち、世界に立ち向かい、ここにいると確かなストーリーで世界を席巻していく。
マンダロリアンも日陰者として、用心棒として恐れられていたが、ついにシーズン3では大きく変わっていきます。ついに日陰から表舞台へ。
様々な人種、宇宙生物w、そして思想とスタイルが違えどもこれからどのような方向にストーリーは進んでゆくのか。
確実に時代を掴んでいるこのマンダロリアンをぜひ見ていただければと思います。
マンダロリアン/シーズン3
星⭐️5つに対して
個人的満足度:🌟🌟🌟
オススメ度:🌟🌟🌟🌟🌟
見てない方はぜひシーズン1から見ていただければと思います。またディズニープラスの面白いドラマも近々特集するつもりです。