前回の記事で百年の孤独を取り上げました。南米はメキシコ出身の監督、アレハンドロ・イャリトゥ監督バルドを取り上げたいと思います。
アレハンドロ・イニャリトゥ監督は21グラム、バードマン、レヴェナント、バベル、そしてビーティフルと名作を数多く作った監督として有名です。
私も何度も見返している作品ばかりでベスト映画50本挙げろと言われたら、少なくとも上記にあげた作品は全て入るw。今回のバルドもそうだけと、やっぱり凄い監督だなと思うし、今回の映画ほど監督自身の人生を投影した作品はなく、紹介するにあたって気づいたのは、アレハンドロイニャリトゥ監督の特集もいつか必ずやりたいと思います。
この前の記事を読んで南米の歴史をある程度認知した上でこのバルドを見ると、面白いというよりも興味深く見れると思います。
私自身このバルドを鑑賞後には監督自身のルーツと苦悩を感じたし、この点ではやはり最もアレハンドロイニャリトゥ監督作品の中では異端でありながらも、最も見返したくなる映画となりました。
監督自身、ガルシアマルケスの百年の孤独に影響を受け、マジックリアリズムという手法で自身のルーツを語るというのは大いなる挑戦であり、様々な作品を経て遂に立ち向かう、というような気概で制作したのではないかと思います。
南米固有の文明があり、スペインやポルトガルの占領があり、その植民地支配からの脱却、しかし独裁者の誕生による虐殺に、さらにアメリカ資本主義の抑圧という血生臭い歴史の中で生き残った人でもあり、それを一本の映画にするには相当な覚悟が必要だったと思います。
アメリカやヨーロッパのような語り口ではダメなんだ、そこから脱却して新たな物語を紡いでいかなければ、私達の精神は自由にならないのだ。
映画を見ながらそのような声が聞こえてくるようでした
故にマジックリアリズムを通して見事な一本の映画を作り上げたと思います。
という訳でここからレビューにうつりたいと思います。できれば鑑賞後にご覧いただければと思います。
なお、DUNEパート2の記事でも南米の歴史について語っていますので百年の孤独とふせて読んでいただければ尚、この映画の奥深さがわかると思いますのでぜひご覧ください。
https://spiralout.hateblo.jp/entry/2024/04/04/160931
バルド/BARDOレビュー
不確実性の記録というセリフがあったと思うけど、まさにそのセリフ通りの映画でした。
流れ者/移民をテーマにした作品が多いイニャリトゥ監督。今回は自身の半生をあてがいながら、自分の育ったメキシコの歴史も同時に遡りつつ、摩訶不思議な世界観で展開していく。
監督はメキシコの地で成長してきた。そのメキシコの歴史にはメソアメリカ文明という優れた文明があった一方で、乾燥地帯であるが故に雨乞いの儀式などをして生贄や人の肉を食べたり捧げたりする文化があった。今ではそういう文化は看過できないわけです。
そして皮肉にもそのような看過できない文化を終わらせたのはスペイン人の襲来で、一気に侵略されて滅ぼされた歴史がある。
生贄を捧げるのは神のため。スペイン人が現地民を殺していった理由はキリスト教こそが真の神で、それ以外は邪教であり歯向かう者は神のために抹殺するという理由でした。
双方共に神のためといって殺りくをしていたわけで、その血がメキシコの地に沁みており、かつ監督自身の身体にもその血が流れている。
常にその歴史が自身の記憶にもあり、混乱している。かつ今も人々は安定した生活をするために流れてゆく。悲惨な記憶/歴史が続くにもかかわらずメキシコから離れると故郷が美しく見えてどうしても思い出を補正してしまう。
メキシコの風土を全身で浴びてかつ呼吸して生きてきた記憶があるが、幼少期から同時にここではないどこかへ行きたいと思っていた。
映画や音楽を通じて夢中になって頭の中で世界を作り上げていた記憶もある。そしてアメリカでも映画を作り、数多くの賞を受賞した記憶もあるが、あれだけ憧れていた地なのにどうしても疎外感を感じ、流れ者として存在している。
メキシコでもアメリカでも自分はよそ者である。どこにいってもそれは変わらない。歴史が、自らの体験の記憶と頭の中で描いた世界の記憶がごちゃ混ぜになっていて、どちらも正しい記憶として存在している。
記憶とは脳科学で言うなら思い出すのではなく、思い返すと過去の出来事が新しく補正されて作り出されるという感じです。短期記憶と長期記憶という具合に分類されるのですが、今回のイニャリトゥ監督は、記憶というものの曖昧さを表現してると感じました。
核心に迫るところはやはりルイスとの屋上のやりとりでしょう。イニャリトゥ監督の想いが反映されてると感じました。
もう一つ、南米の自然風景はとても壮大で奇怪と言えばいいか。魔法をかけてファンタジックな自然風景が広がっているというよりも、まるで魔術/呪術をかけて奇々怪界な自然風景が広がっているという感じです。
到底、日本では見られない風景があって圧倒されます。美的感覚も違うし、生命の重みがまるで違う。あちらは暮らすと軽くなるし、圧倒的な風景の中に妖精やら魔物やらがいてもおかしくない感覚になります。
冒頭の砂漠を歩きながらやがて飛ぼうとするけどなかなか飛べないというシーンが印象的でした。
面白いか面白くないか、理解できるかできないという価値観ではなく、妄想も自分が歩いてきた人生も同じように記憶として存在してるという事を映像にしたのだと感じました。
繰り返しになりますが、個人的にイニャリトゥ監督作品では21g、バードマンと同じくらい好きな作品です。
ぜひ百年の孤独、DUNEパート2の記事を読んでいただければ確実に鑑賞後の感じ方が変わると思います。
アレハンドロイニャリトゥ監督自身のルーツ並びに南米の歴史の苦しみを少しでも理解していただければと思います。
5段階評価
個人的満足度:🌟🌟🌟🌟🌟
オススメ度:🌟🌟🌟🌟